伊是名村のNPO法人「島の風」視察報告

伊是名村のNPO法人「島の風」の取り組みと、「島を残す」ということとは

伊是名村の取り組みについて
 今年(2013・平成25)年3月27日から29日までの3日間、県内視察に行ってまいりました。視察先は数カ所でしたが、とりわけ、関心の深かった伊是名村のNPO法人「島の風」の取り組みについて実際に触れ、できれば理事長である納戸義彦(なと よしひこ)氏のお話も拝聴したいという思いで、事前に連絡を差し上げました。幸運にも、快く時間を割いていただき、たいへん充実した視察でしたが、こちらの手違いもあり、ゆっくりできなかったことが心残りです。

 納戸氏には、夜もおつきあいをいただき、「島の風」の諸々の取り組みと、その取り組みのなかで一貫してながれる基本理念について話していただきました。その情熱と語り口にはこちらも終始、胸が熱くなる思いでした。それは、「島の風」のパンフレット等にしっかりと表現されておりますが、この基本理念にはやはり深い共感を覚えました。これからの地域活動に際し、少しでも活かしていければと思っています。

 今回は、伊是名村「島の風」の取り組みについて報告をいたします。

伊是名村 NPO法人「島の風」


古民家再生事業

島尻郡伊是名村字仲田64番地
TEL 0980-50-7330

 伊是名村は、沖縄本島北方にあり、もっとも大きな伊是名島を含め、4島からなる。
平成22年現在の人口1,642人。

 案内は、「島の風」理事長で、「LLC 島の元気研究所代表社員」でもある納戸義彦(なと よしひこ)氏。同村勢理客(じっちゃく)に所在する事務所で実践状況の説明及び資料等をいただいた後、島内を案内してもらった。納戸氏の本業はダイビング業。NPO設立は2005(平成17)年、5人でスタート。

「島の風」の基本理念は、「島のこしが島おこし」


古民家再生プロジェクト

  「島を残す。それは、景観としての島の風景だけではなく、それを支え維持してきた島民の生活やそこに流れるコミュニティの文化をも含め、残し伝えるという考えである。それも硬直した復古主義に陥ることなく、現代社会の中で可塑的な柔軟性を持ちながら進めていこうとするもので、平易にいえば、生活実践の中で、オジイ、オバアの笑顔を残し、伝承していこうという考え方である。

沖縄の民家

 その中心となる活動が「古民家再生事業」である。沖縄の民家が持つ独自の自然に対するパッシブデザインや建築文化的意味合いは勿論であるが、それを単に建築物として静的に再生するのではなく、それらを取巻く小さなコミュニティの中で、スモールビジネスとしてその存在を成立させることで、生活世界との関係性を再構築しようという試みである。」

実践事例


  1. 古民家再生プロジェクト 「古民家をリサイクルし、地域住民が運営するコミュニティ・ツーリズムを推進するプロジェクト」
    • 古民家築60年、6年間無人のまま放置、建物内部は雨漏り等で崩壊状態。再生費用は370万円+設備備品約100万円=計470万円。2007年7月より「島暮らし体験の宿」として運用を開始。日常生活に必要な備品を設置し、一棟貸しとして貸し出す。使用料金2泊30,000円から。年間平均稼働率35%をめざす。現在、2棟を整備済み。島民からは数棟の再生申し入れがある。
  2. 「沖縄古民家再生職人養成カレッジ」開催
    • 専門家の指導のもとに、島の若者に職能訓練をおこなう。修復過程を10回のカリキュラムに分け現場訓練。修復チームの結成により、地域内での起業を促す。島外でも事業の展開を可能にする。
  3. 古民家レストラン事業
    • 現代社会の中であまりにも遠く離れてしまった農と食を直結する取り組み。有機土づくり(ミミズの住む土づくり)、大豆の生産(100%島豆腐をめざす)、野草食の復興(浜ほうれんそうなど)。
  4. 住民による宝再発見事業(住民の主体性の醸成)
    • 住民自らが主体となり、島の宝である国指定重要文化財「銘苅家」を活用した自主運営のイベント事業。企画、準備、運営まですべて民間主導で行う自主事業
    • 子どもたちとつくる1,000基のローソク行灯による、環境に配慮したキャンドルライト「しまあかり」イベント
  5. 今後の事業(フクギの植栽による島もどし事業)
    • 島を残し、守り、伝える運動に新たに島をもどす活動追加する。20年、30年後を見据えた島の景観の復元事業。自然と共生した先人の知恵を伝承するとともに、環境教育プログラムの確立。カーボンオフセットによる環境負荷の低減をはかる活動。


私の感想


 古民家再生プロジェクトは、あくまで島の資源、歴史、風土人々にこだわり、島の固有性に徹底してこだわるという考え方が一貫しており、目新しいものを安易に導入するという立場をとらない。取り入れるにしても、伊是名らしい特色につくり直すなどの視点がある。「島のこしが島おこし」という理念は、そのような古来の島のたたづまいや暮らしを残すことで、他の島々との差別化をすすめ、そういう固有性を際だたすことを戦略としているように感じられた。

 屋敷囲いの石垣(海岸から家人が運んだ)の保存、集落の狭い道路もそのままに残すなどの心配り、石垣に留意した人力による排水溝の設置などには感嘆する。地域づくりの原点といえそうな気がする。

古民家再生プロジェクトと並ぶ合同会社「島の元気研究所」の設立


古民家再生による宿泊観光客への対応に含め、島の人々がつくる島の産品を6次産業化、主としてこの島での観光客を対象に販売。その代表的な産品に島で作られたお米(農家数15戸)、そのなかで不要とされてきた「くず米」を利用したお米麺「太陽麺」がある。

「島の風」のコミュニティ・ツーリズム(ビジネス)の考え方
(グローバルからローカルへ)



  1. 観光という運動「来るなという誘客」
    • 観光商品づくりから観光という運動へ・徹底した顧客づくり・地域が疲弊しない適正規模の誘客
    • 観光能動者の視線から観光受動者のあり方へ
  2. 頑張らないビジネス「コミュニティ・ビジネス」
    • 利益第一・拡大優先の市場経済からの脱却・自立する地域の形成と住民主体による地域密着ビジネス・地域の適正規模、適正利益の緩やかなビジネス
  3. 提供から提案、そして共感へ「がんばれ伊是名島」
    • 「Needに応える」から「Demardに提案する」へ・伊是名島は伊是名島を目指す・全国に伊是名島応援団の醸成


伊是名 島の風 島の元気研究所

  

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